地域医療研修①: がん終末期の急変対応

地域医療実習でクリニックに来てはや1週間がたった.今日訪問診療で経験した貴重な経験について振り返ってみる.

 

患者さんは6か月前に左上葉肺腺癌,多発脳転移,多発骨転移と診断され,3か月前に左頭頂葉の転移性脳腫瘍の摘出術を行った.独居だったためサービス付き高齢者向け住宅に退院となったが,ADLや認知機能はほとんど保たれていた.

 

今日訪室してみると上級医が前回訪問した時よりも意識状態が悪化しており,新規の右上下肢麻痺も見つかった.
施設職員や家族曰く,2週間くらいこのような状態だったとのこと.

 

医学的には,脳転移巣が増大した可能性,腫瘍を背景に凝固亢進して脳梗塞になった可能性,転倒を契機に慢性硬膜下血腫を発症した可能性が考えられた.

 

僕は緊急ではないにせよ,鑑別のため頭部CTが必要だろうと直観した.上級医も撮りたいと言いつつも非常に迷っていた.というのは,患者さんは意識が保たれているときに手術や急変時の病院搬送はしないでほしいと意思表示しており,娘様も穿頭術であっても本人は手術を望まないはずだと推定したからだ.
手術をしないのであれば,CT撮影によって大きく治療方針が変わることはない.あるとすれば,PCI後で内服していたバイアスピリンを止めるかどうかの判断に影響するのと,予後予測に役立つかもしれないくらいだ.娘様も上記を理解した上で,CTを積極的には希望しなかった.

 

終末期の医療は関係性に大きく影響されるという.同じ病態であっても,患者さんや家族の価値観によって治療が変わってくる.さらに,ここには医師の考え方も大きく影響してくる.このような医療を間主観性の医療と呼ぶと教わった.

 

難しいのが,間主観性に頼りすぎるのも患者さんのためになっているかどうか分からないということだ.
例えば意思表示ができない末期COPDの患者さんがいて低酸素になったとする.家族は患者さんを見ていて酸素を吸っているときに苦しそうだから,酸素は投与したくないという.医師も酸素投与は延命にしかならないと考えている.
では酸素を投与しないでよいのかと言えば,そうとも言い切れないだろう.それは患者さんがその決断によって苦痛を感じればそれは無危害原則に反することになるからである.
間主観性と医学的必要性のバランスを取るのが難しいと感じた.

 

脱線してしまったが,カンファでこの症例を提示したところ,CTは治療方針に影響しないので不要という意見が多かったが,担当医の主観は治療方針決定に影響して然るべきとして,最終的には行う方針になった.

 

それとは別に,今の施設でいつまで診てくれるのか,本人や家族は最期の場所としてどこを望んでいるのか,などの意見も出てきた.

 

今回は終末期の患者さんの(準)急変という貴重な経験をすることができた.
家族,プライマリケアに関わる医療スタッフが,様々な可能性を考慮して話し合いを続けることで,心理・身体的変化の多い終末期の患者さんを支えることができるという学びを得ることができた.